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昭和政策

 

 少子高齢化が進み、働き手が極端に少なくなったこの時代に、主上が世迷言を言い出した。

 

「少子化が進んだのは晩婚化の所為、晩婚化が進んだのは女性の社会進出及び女性も大半が大学まで進み勉学に励むようになった所為。それでは」

 

 

 

     古き良き時代に帰りませう

 

 

 

 

 

 主上がまず初めに始めたことはパソコンなどの電子機器の利用時間の制限だった。最初は一日8時間。それでも急激に利用時間は下がった方だがそこから5時間、3時間と短くなり、しまいには使えなくなった。新幹線は特急列車などと古そうな名前に呼び方を変えられていった昭和政策が始まって、多分生まれて初めて外に出た。学校も仕事もほとんどパソコンで出来たからだ。出会いもパソコン。外を出歩く人はほとんど居なかった。さみしくなったらアンドロイドを呼べばいい。生身の人間とはほぼ変わらない。主上は女性のせいで少子化になったというが、俺は人との関わりが少ない事が原因だろうとはっきり思った。

 政策により俺は生まれて初めて配給された着物を着て、外に出て、直接人と関わった。街で同じ働き手であろう同い年くらいの男と話した。自分たちの出生、家族、恋人、社会の不満、未来への不安、そして昭和政策が進むにつれて、自分たちへの負荷が何故軽くなったのか

 

「俺ら働き手の人数が増えたんじゃない…逆だ。上が、軽くなったんだよ…」

「………?…………‼︎‼︎」

 

最初にそれを聞いた時意味が分からなかった。意味が分かった瞬間全身に鳥肌が立った。俺たちへの負荷が減るほど高齢者が減った、というならその数は十や百じゃないはずだ。

 

「なっ、…なんで…そんな急に……」

 

男は上を指差した。主上がやったことだと言うのだ。

 

「……っ!?う、…うぇっ」

 

悪寒がした。気持ちが悪くて仕方なかった

 

「いいよ、吐きなよ。俺も最初にそれが分かった時本当何でかわかんないけど気持ち悪くて仕方なかった」

「お"ぇっ……ごめ…」

 

男は吐いている俺の背中をさすってきた。何故男に触られているのかわからなかった。最初は体が跳ねるほど驚いて困惑した。でも、少し、気が楽になった。

 

 

落ち着いてから俺はもう一度男に確認した

 

「じゃ、じゃあ、主上が高齢者を殺し…」

 

男が勢い良く俺の口を抑えた。

 

「馬鹿‼︎…場所変えるぞ…」

 

訳が分からなかったが言われるまま男についていった。

 

「ほら、見てみろ。」

 

男が指差した先を見ると、街灯の灯りの下に目立たないようになっているが、何かついているのは分かった。

 

「…?あれは…?」

 

俺にだけ聞こえるような声で男が耳打ちしてきた

 

「監視カメラだ。機器を使うなと言っておきながら自分はあんなもん使ってずっと監視してるんだぜ?声もあっちには聞こえてる。それに、あれ。ほら。」

 

男が顎で通りの向こうを指すのでそちらを見ると、警官服を着た男が立っていた。

 

「警察…じゃなくて、保安局?だっけ?あれは治安を守るとかそんなんじゃなくて、主上に反発する勢力を芽から潰すってのが本当の目的らしい」

「……っ」

 

なんだかもう頭がついていけなかった。

 

 

 

 昭和政策が始まってから色んなものがどんどん変えられていった。高く高く上へ伸びていた高層ビルは何故だかどんどん背が低くなり空が見える様になった。鉄筋コンクリートだとかガラス張りだとかそういう建物が木造に変えられていった。機器の殆どが主上に回収され、生活は前より不便になった

 法が変えられた。9条について論争を繰り広げていたのに、主上の手にかかれば人がいくら反発しようとも、いとも簡単に変えることができ、結局廃止された。日本に軍ができた。

 外交も変わった。外国人移住者の殆どがこの国から追い出された。元々人と俺はあまり関わらなかったから始めは何とも思わなかったが、パソコンもなくなった今、外国人と接触する機会がまるでなくなったということだった。俺たちにとってはその程度だが、住んでいた場所を追い出された外国人達は文句をたてるかと思いきや皆素直に国へ帰ったと聞いた。金を渡されたのか、口を封じられたのかは俺にはわからない。

 人も変わった。人が外を出歩く様になった。出歩かなければ出来ないことの方が多くなった。家だけでは何も出来ない。仕事場が出来た。多くの人と直接関わる事が増えた。これだけは、少し楽しいと思えた。

 

 

今日も元気に昭和政策

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